労使協定方式※賞与の設定<必要な6つのステップ>
2020年4月から「同一労働同一賃金」が派遣業を皮切りに施行され、ルールの徹底が求められるようになります。
今回は「賞与」について解説させて頂きます。
同一労働同一賃金では賞与(ボーナス)も対象となり、もちろん行政が出す水準以上にしなければいけなくなります。
そもそもの同一労働同一賃金の概要↴
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<必要な6つのステップ>
派遣さんに賞与が(ほぼ)必須になってくるのです。本当にすごい時代だなあと思います。しかし、一方でこの賞与の設定の仕方によって、派遣会社の評価制度が「正当な評価に基づく、納得感のある賃金制度」になるのか、「ただ法律に踊らされているだけの賃金制度」になるのか、全くちがった道を歩むことになると思います。つまり、賞与が同一労働同一賃金の分かれ道だと思います。
①賞与は何円支払えばよいのか<≒賞与を支払わない基準について>
まずは、行政が求めている賞与の水準について解説させて頂きます。
同一労働同一賃金の労使協定方式では、行政機関が発表した時給ベースの統計値を上回ることが必要でしたね。あの統計値は「賞与を含む」時給の平均値です。つまり、時給単体であの統計値を上回る必要はなく、あくまでも賞与込みで上回っていればOKです。
仮に、ある職業の統計値が1,000円/時間だったと仮定します。
その時下記のような制度設計が可能です。
時給950円 + 賞与 50円=1,000円
従業員1人であればこれでOKです。では3人の場合はどうでしょうか?これ、けっこう質問が多いです。
賞与が全従業員に均一に支払われる会社はほとんどありません。むしろ、本人の能力、地位、勤務成績、営業成績等を反映させるケースがほとんどです。
では、もしも勤務成績が悪く、派遣先の評判も悪い派遣さんがいた場合はどうでしょうか?その人にも賞与の支払が必要になるのでしょうか?
仮に求められる行政の統計値が1100円の場合で考えてみましょう。
このように、賞与の部分だけ平均をとって行政の統計値を上回っていればOKです。
B君とC君は時給+賞与が行政の統計値(1100円)を下回っています。しかし、この場合は賞与の部分だけを取り出して平均を計算し、もう一度再分配して上回っていればOKということになります。
②賞与の支払方法<2つの方式>
賞与は必ずしも毎月支払われるものではない会社が一般的です。
派遣元の会社としては下記の2パターンから選択することが多いと思います。仮に求められる行政の統計値が1000円の場合で考えてみましょう。
では詳しく見ていきましょう
では、どのような賞与の支払い方が考えられるでしょうか。
パターンA 季節賞与(7月、12月など時期を決めて支払う)
最も一般的な賞与です。もらう側にとっても「賞与っぽい」のではないでしょうか。
仮に求められる行政の統計値が1000円の場合で考えてみましょう。
時給950円 + (半年の季節賞与<48,000とする>÷6か月÷4週間÷5日÷8時間=50円) = 1,000円
このような計算になります。各月の出勤日数に応じて割り戻してから、行政の統計値と比較することになります。計画段階では出勤日数は概算でOKですが、実際には派遣さん全員の半年間の出勤日数を正確に予測するのは困難です。派遣先で必要としている人数が月ごとで変動する場合は更に大変です。また、欠勤が多い派遣さんに関しては、さらに難しいです。
以下メリット、デメリットを解説させて頂きます。
季節賞与のメリット
<評価が定まった後で支払うことができる>
多くの会社で賞与は「会社の業績」と「本人の評価」と「本人の役職、地位」
の3点から定まると思います。例えば「会社の利益がこれくれいだから、賞与としてこれくらい還元しよう」という計算が先にあり、「係長クラス」で「5段階評価のうち、4段階」なので、この人には何円渡そうという配分が成り立ちます。
その他にも「基本給の●か月分」という基準から「この人は3か月分」「この人は1.2か月分」という配分も可能です。
後述しますが、もう一つ方式(分割賞与)では少し複雑になります。
<割増賃金の計算基礎にならない>
これは分割賞与の方でもう一度説明しますが、分割賞与という形で支払うと割増賃金の計算基礎になります。割増賃金とは「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」の割増賃金のことです。
割増賃金の計算の際に「基本給だけを所定労働時間で割る」という考えの人は、21世紀になって絶滅していると思いますが、一応ご説明します。
割増賃金の計算は
(対象者の固定的賃金ー労基法で限定列挙した除外できる手当)÷所定労働時間×割増率×時間
です。
その労基法で限定列挙した除外できる手当が下記になります。
分割賞与という形で支払うと、それは図の①~⑦には含まれておりませんので、当然割増賃金の計算基礎になるということになります。
季節賞与デメリット
<賞与支払届が必要>
これは当たり前といえば当たり前なのですが、社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金被保険)の賞与支払届が必要になってきます。
もちろん、社会保険に加入していない人は対象外です。派遣さんの場合は出勤日数が少なく社会保険に入っていない方も多いと思います。社保加入者とそうでない方が混在している場合はどのように届出をすれば良いでしょうか。
それは、社会保険に入っている人だけ記入すればOKです。賞与支払届は社会保険加入者に対し、年金や健康保険の納付実績として記録をつけることと、応能負担の法則から適切な社会保険料を納めることです。社会保険に入っていない人は、もし賞与が出ていても届出は不要です。
<まとまった支出が必要になる>
これも当たり前といえば当たり前ですが、賞与の支払時期にまとまった支出が必要です。派遣さんの賞与は派遣料金から捻出したいところです。
しかし、派遣先は賞与の時期にまとめて派遣料金を出してくれるでしょうか?派遣元で賞与の支払に100万円必要になったとしても、例えばマージン込みで150万円を出してくれるでしょうか?
日本の季節賞与はだいたい、6月か7月の夏季賞与そして12月の冬季賞与として支払われます。(もともとは武士の時代に盆暮れに支給されていた「お仕着せ」が由来です)
そうすると、同じ時期に派遣先は大変な派遣料金を支払うことになります。それも、派遣元の人事部が「今年は業績も良いから普段より多めに出そう」なんてことを言い始めるかもしれません。そんな話を派遣先が聴いてくれるでしょうか?
そうです。派遣先の気持ちになって考えてみると、派遣料金は季節的にではなく月々の派遣料金に上乗せして払いたいはずです。そうなると、派遣元が季節賞与として7月、12月などにまとめて支給する場合は、賞与引当金としてお金を貯めておく必要があります。
パターンB 分割賞与(毎月の給与に上乗せで賞与を少しずつ支払う)
賞与を分割賞与という形で毎月支払うパターンです。
仮に求められる行政の統計値が1000円の場合で考えてみましょう。
時給950円 + 分割賞与 50円=1,000円
簡単ですね。この方法は月ごとの人件費の見通しは立てやすいと思います。ただし、年間で賞与の支払がどれほど必要になるのかは、単純に12をかけてしまうと、月ごとの出勤頻度、業務の繁閑が考慮されず、計算が難しいところです。100%計画通りにというのは難しいでしょう。
分割賞与メリット
<人件費の見通しがたちやすい>
これは季節賞で説明しましたが、派遣先の気持ちになって考えてみると、派遣料金は季節的にではなく月々の派遣料金に上乗せして払いたいはずです。
そうなると、派遣料金に合わせて分割賞与という形で支払う方が、月々のお金の収支が簡単です。
<賞与支払届が必要ない>
こちらも季節賞与のところで説明しましたが、分割賞与であれば賞与支払届は必要ありません。
ここで「社会保険逃れにならないの?」と驚く人がいるかもしれませんが、大丈夫です。毎月の給与に上乗せで支払うので、「算定基礎届」や「月額変更届」やの計算対象になり、そちらで計算されるだけです。
もちろん、最初に「被保険者資格取得届」を出す場合も概算でよいので、分割賞与を加味する必要があります。もしも年金事務所の調査が入ったら、月々の給与の金額と標準報酬月額に大きく乖離がある場合、遡って手続きをやり直させられる場合がありますので注意してください。
分割賞与デメリット
<評価が定まる前に支払う>
こちらも季節賞与のところで説明しましたが、多くの会社で賞与は「会社の業績」と「本人の評価」と「本人の役職、地位」の3点から定まると思います。例えば「会社の利益がこれくれいだから、賞与としてこれくらい還元しよう」という計算が先にあり、「係長クラス」で「5段階評価のうち、4段階」なので、この人には何円渡そうという配分が成り立ちます。
しかし、分割賞与で支払う場合はこれらが定まる前に支払う必要があります。もちろん、入社から最初の査定までの期間は「まだ働いていない期間なので最低評価でよい」と厚生労働省のQ&Aで書かれていますが、最低評価の場合でも「平均して再分配してチェック」はしなければなりません。あの表です。
もちろん、最初は分割賞与が0円でもいいわけですが、平均して再分配してチェックしたときに全員が行政の統計値を上回っているようにしましょう。
<割増賃金の計算の基礎となる>
これは季節賞与の方で一度説明しましたが、分割賞与という形で支払うと割増賃金の計算基礎になります。割増賃金とは「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」の割増賃金のことです。
割増賃金の計算は
(対象者の固定的賃金ー労基法で限定列挙した除外できる手当)÷所定労働時間×割増率×時間
です。
その労基法で限定列挙した除外できる手当が下記になります。
分割賞与という形で支払うと、それは図の①~⑦には含まれておりませんので、当然割増賃金の計算基礎になるということになります。
派遣さんの時間外労働、深夜労働が多い場合は注意が必要です。
③評価方法の決定、評価基準の決定
④賞与の支払額の目安の検討
⑤明細上の記載の仕方
⑥賞与と会社理念
↑別のブログで書きます。少々お待ちください。